青検 - 牧野信一
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病状. 牧野信一. 凍てついた寒い夜がつゞいてゐた。 私は、十銭メートルの瓦斯ストーヴに銀貨を投げ込みながら、空の白むまで机の前に坐りつゞけたが、一行の言葉も浮ばぬ夜ばかりだつた。 ... 底本:「牧野信一全集第五巻」筑摩書房. 2002(平成14) ...
ゼーロン. 牧野信一. 更に私は新しい原始生活に向うために、一切の書籍、家具、負債その他の整理を終ったが、最後に、売却することの能(あた)わぬ一個のブロンズ製の胸像の始末に迷った。—— 諸君は、二年程前の秋の日本美術院展覧 ...
バラルダ物語. 牧野信一. 俺は見た. 痛手を負へる一頭の野鹿が. オリオーンの槍に追はれて. 薄明(うすあけ)の山頂(みね)を走れるを. ——あゝ されど. 古人(いにしへびと)の嘆きのまゝに ... 底本:「牧野信一全集第四巻」筑摩書房 ...
痴日. 牧野信一. 一. 頭の惡いときには、むしろ極めて難解な文字ばかりが羅列された古典的な哲學書の上に眼を曝すに如くはない——隱岐はいつも左う胸一杯に力んで、決して自分の部屋から外へ現れなかつた。 活字の細いレクラム本 ...
泉岳寺附近. 牧野信一. 一 ... 喋舌られるのが厭だつたら、自分こそあんまりケチなことを云ふない。 ... 底本:「牧野信一全集第五巻」筑摩書房. 2002(平成14)年7月20日初版第1刷発行. 初出:「新潮」新潮社. 1932 ...
城ヶ島の春. 牧野信一. 城ヶ島といふと、たゞちに北原白秋さんを連想する——といふより白秋さんから、わたしは城ヶ島を知り、恰度酒を飮みはじめた十何年か前のころ、わたしたちは醉ひさへすれば、城ヶ島の雨を合唱したものである。 白秋 ...
鬼涙村. 牧野信一. 一. 鵙の声が鋭く気たゝましい。 万豊の栗林からだが、まるで直ぐの窓上の空でゞもあるかのやうにちかぢかと澄んで耳を突く。 ... 底本:「牧野信一全集第五巻」筑摩書房. 2002(平成14)年7月20日初版第1刷発行 ...
鬼涙村. 牧野信一. 一. 鵙(もず)の声が鋭くけたたましい。 万豊の栗林からだが、まるで直ぐの窓上の空ででもあるかのようにちかぢかと澄んで耳を突く。 きょうは晴れるかとつぶやきながら、私は窓をあけて見た。 窓の下はまだ ...
余話. 秘められた箱. 牧野信一. 厳格らしい母だつた。 幼時余は、母に、『論語』を学び、二宮尊徳の修身を聴講し、『ナショナル・りいどる』巻の一に依つて英語を手ほどかれ、『和訳すゐんとん万国史』を講義された。 ...
牧野信一. 一. 一九三四年、秋——伊豆、丹那トンネルが開通して、それまでの「熱海線」といふ名称が抹殺された。 ... 底本:「牧野信一全集第六巻」筑摩書房. 2003(平成15)年5月10日初版第1刷発行. 初出:「日本評論 ...
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