青検 - 有島武郎
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或る女(後編) 有島武郎. 二二. どこかから菊の香がかすかに通(かよ)って来たように思って葉子(ようこ)は快い眠りから目をさました。 自分のそばには、倉地(くらち)が頭からすっぽりとふとんをかぶって、いびきも立てずに熟睡していた。 ...
小さき者へ. 有島武郎. お前たちが大きくなって、一人前の人間に育ち上った時、――その時までお前たちのパパは生きているかいないか、それは分らない事だが――父の書き残したものを繰拡(くりひろ)げて見る機会があるだろうと思う。 ...
一房の葡萄. 有島武郎. 一. 僕は小さい時に絵を描(か)くことが好きでした。 僕の通(かよ)っていた学校は横浜(よこはま)の山(やま)の手(て)という所にありましたが、そこいらは西洋人ばかり住んでいる町で、僕の学校も教師は西洋人ばかりでした。 ...
二つの道. 有島武郎. 一. 二つの道がある。 一つは赤く、一つは青い。 すべての人がいろいろの仕方でその上を歩いている。 ある者は赤い方をまっしぐらに走っているし、ある者は青い方をおもむろに進んで行くし、またある者は二つ ...
卑怯者. 有島武郎. 青黄ろく澄み渡った夕空の地平近い所に、一つ浮いた旗雲には、入り日の桃色が静かに照り映(は)えていた。 山の手町の秋のはじめ。 ひた急ぎに急ぐ彼には、往来を飛びまわる子供たちの群れが小うるさかった。 夕餉 ...
有島武郎. A兄. 近来出遇(であ)わなかったひどい寒さもやわらぎはじめたので、兄の蟄伏期(ちっぷくき)も長いことなく終わるだろう。 しかし今年の冬はたんと健康を痛めないで結構だった。 兄のような健康には、春の来るのがどのくらい祝福であるかをお察しする。 ...
有島武郎 (一) 長い影を地にひいて、痩馬(やせうま)の手綱(たづな)を取りながら、彼(か)れは黙りこくって歩いた。 大きな汚い風呂敷包と一緒に、章魚(たこ)のように頭ばかり大きい赤坊(あかんぼう)をおぶった彼れの妻は、少し ...
かんかん虫. 有島武郎. ドゥニパー湾の水は、照り続く八月の熱で煮え立って、総ての濁った複色の彩(いろ)は影を潜め、モネーの画に見る様な、強烈な単色ばかりが、海と空と船と人とを、めまぐるしい迄にあざやかに染めて、其の総てを真夏の光が、押し包む様に射して居る。 ...
溺れかけた兄妹. 有島武郎. 土用波(どようなみ)という高い波が風もないのに海岸に打寄(うちよ)せる頃(ころ)になると、海水浴に来(き)ている都(みやこ)の人たちも段々別荘をしめて帰ってゆくようになります。 今までは海岸 ...
有島武郎. 八月十七日私は自分の農場の小作人に集会所に集まってもらい、左の告別の言葉を述べた。 これはいわば私の私事ではあるけれども、その当時の新聞紙が、それについて多少の報道を公けにしたのであるが、また聞きのことでもあるから全く誤謬(ごびゅう) ...
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