青検 - 佐藤垢石
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たぬき汁. 佐藤垢石. 一. 伊勢へななたび熊野へさんど、という文句があるが、私は今年の夏六月と八月の二度、南紀新宮の奥、瀞八丁の下手を流れる熊野川へ、鮎を訪ねて旅して行った。 秋の落ち鮎には、さらにも一度この熊野川へ志し、 ...
寒鮒. 佐藤垢石. 静寂といおうか、閑雅といおうか、釣りの醍醐味をしみじみと堪能するには、寒鮒釣りを措(お)いて他に釣趣を求め得られないであろう。 冬の陽(ひ)ざしが、鈍い光を流れにともない、ゆるい川面へ斜めに落として、やがて ...
岩魚. 佐藤垢石. 一. 石坂家は、大利根川と榛名山と浅間火山との間に刻む渓谷に水源を持つ烏川とが合流する上州佐波郡芝根村沼之上の三角州の上に、先祖代々農を営む大地主である。 この三角州は幕末、小栗上野が官軍の東上に抗する ...
佐藤垢石. 上. 私は、鯰の屈託のない顔を見ると、まことに心がのんびりとするのである。 私もあんな顔の持ち主に生まれてくればよかったな、と思うくらいである。 小さな丸い眼、大きな口、下顎の出た唇、左右に長く伸びた細い髭。 あの ...
佐藤垢石. 一. 南紀の熊野川で、はじめて鮎の友釣りを試みたのは、昭和十五年の六月初旬であった。 そのときは、 ... 波止場の改札口に、佐藤垢石様と書いた半紙を、二尺ばかりの棒に吊るして、十歳ばかりになる少年が、 ...
すっぽん. 佐藤垢石. 一. このほど、御手洗蝶子夫人から、 『ただいま、すっぽんを煮ましたから、食べにきませんか』 と、言うたよりに接した。 一体私は、年中釣りに親しんでいるので、いつも魚の鮮味に不自由したことがない。 殊 ...
縁談. 佐藤垢石. 一. 私のように、長い年月諸国へ釣りの旅をしていると、時々珍しい話を聞いたり、また自らも興味のある出来ごとに誘い込まれたりすることもあるものだ。 これから書く話も、そのうちの一つである。 外房州の海は、夏がくると美しい風景が展開する。 ...
盗難. 佐藤垢石. 一. 私は、娘を盗まれたことがある。 そのときのやるせなさと、自責の念に苛(さいな)まれた幾日かの辛さは、いまでも折りにふれてわが心の底によみがえり、頭が白らけきる宵さえあるのである。 結婚後、五、六年になるが不幸にも、 ...
猿ヶ京. 佐藤垢石. このほど、元代議士生方大吉君の案内で東京火災保険の久米平三郎君と共に、上州と越後の国境にある三国峠の法師温泉の風景を探ったのである。 途中、猿ヶ京の部落を過ぎたが、車中で生方君から人間の真情について、 ...
香熊. 佐藤垢石. 一. このほど、友人が私のところへやってきて、君は釣り人であるから、魚類はふんだんに食っているであろうが、まだ羆(ひぐま)の肉は食ったことはあるまい。 もし食ったことがないなら、近くご馳走しようではないかというのだ。 ...
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